良く晴れた青空がきれいな名古屋です

東京でも地震があったようで、名古屋もそろそろ…

どうしようもない側面もありますが、心構えと準備はしておく必要があると思います。
災害も犯罪も「自分には関係ない事」と思ってるのが一番危険
ですが、大地震の際にはワインはもう諦めるしかなさそう

今日も備忘録です。
ワインは店頭にあるものも、取り寄せでも買えますので購入をご希望の方はお申し付け下さい

結構長いので拾い読みしてください。

オレムス

左から、
マンドラス2017
ペトラッチ2018
トカイ レイトハーヴェスト2019
トカイ・アスー5プットニョシュ
ラグジュアリーレジェンズセット
2013・ 2000・ 1972
トカイ・アスー エッセンシア2011
ハンガリーの白ワインです。
トカイは世界3大貴腐ワインの一つですので、知ってる方も多いと思います

(あとの二つはソーテルヌとドイツのTBA)
この3大貴腐ワインはどれも極甘口です、生産量がとても少なく貴重で、昔は薬として珍重されていたくらいです

(トカイという名称のワインには辛口もあります)
オレムスはそのトカイの生産者の中でも最古のワイナリーで、この貴重なワインの発祥の地でもあります

前にも紹介していますが、一番最初のワイン(の命名)がはっきりしているって、とても珍しい事です

歴史はとても古く、17世紀の初めよりハンガリー王朝の歴史と重なってトカイワインは共に変遷、発展してきました。
徳川将軍家直轄の日本酒蔵が現在まで続く、みたいな感じ

現在のハンガリーという国は、西暦1000年にパノニア平原を中心に成立したマジャール人のハンガリー王朝がその基礎になっており、キリスト教国の東端であったために代々、宗教的な国境守備が宿命となっていました。
その後、東のオスマン帝国が10代皇帝のスレイマン1世の治世で全盛期を迎えると、1521年にはハンガリー領内に侵攻しベオグラードを陥落させます。
ここから第二次ウィーン包囲の失敗まで、150年ほどハンガリー王朝はオスマン帝国の半支配下にありながら、西のハプスブルグ家とも争っていて、あちこちからけちょんけっちょんで大変な時期を凌いでいきます

この戦乱の渦中の1630年、トカイの甘口ワインは誕生します

戦争で男手がなくなった農村ではブドウの収穫まで人手が回らず、ブドウは樹上で枯れるに任され、放置されていたそうです。
まずは避難など身の安全が第一、次に家畜など世話が必要なもの、最後に果樹、だったんでしょうね。
一年に一度しか収穫がないブドウにずっと目を配っていられるような状況ではなかった事は想像に難くないです

オレムスはこの時、王家のラーコーツィ家の所有ワイナリーでした。
王家のブドウ畑でもほっとかれてるくらいですから、長引く戦争で疲弊してるハンガリー国内はさぞ大変だっただろう…
この枯れかけたブドウを惜しんで、牧師(当時のハンガリーは30年戦争でプロテスタント側についてます)のセプシ=ラツコー・マテーがワインを作ったところ、それが非常に甘くて美味しいことに驚き、この「奇跡のワイン」は王家に献上されます

高貴な香りと味わいのこの甘口ワインはすぐに王侯貴族の間で大人気になり、フランス王のルイ14までもが絶賛、「王のワイン」と名付けたほど称賛されました

それから長らく、ハンガリーのトカイの名前は現在でも知られた高級甘口ワインのままでいます

実は当初、この貴腐ブドウには否定的な意見もありまして。
貴腐がついたブドウは、どう見てもカビが生えて茶色く腐敗したような見た目ですので、このような物を神にささげるワインとしていいのかどうか、宗教的な冒涜ではないか、という反対があったらしい

確かに、アレを最初に口に入れた人は度胸があった、かも。
いや、たとえ腐りかけのブドウでもお酒に執着する人の意地汚さ(失礼)が行動させた、という方が正しいような気もする

てんちょ、すっごく気持ちが分かります

こうして王家の甘口ワインを生み出すオレムスは一層の権威を纏って、後世に受け継がれることになりました。
ハンガリーの王家のラーコーツィ2世は、新しい特産品のトカイを保護するため、畑を格付けし、トカイの階級まで制定する先進的な取り組みをしています。
トカイワインの産地は、ハンガリーの東部、トカイ・ヘジャリア地方にあります。
オレムスはトレチヴァという小さな町にあります
ここ ↓

ブダペストから車で2時間30分、簡単には行けないけど行ってみたい

ゼンプレーンという呼称にも使われている山の麓らしいです(標高200m)が、なだらかな丘が美しい風景です ↓

HPより 以下同様
流石に冬景色は寒そうです ↓

第二次大戦後、社会主義国となったハンガリーではオレムスは共同所有され畑は分割されて30もの所有者が名を連ねていたそうです。
1993年、社会主義が崩壊した3年後にスペインのベガ・シシリアを運営するアレバレス家が進出して、分割されたいた畑を再統合し、慎重な調査を行った上で伝統を尊重したワイナリーを再建、地下セラーも統合して再出発しています



甘露がたくさん
所有畑は115ha、流石の一大ワイナリーですね

ベガ・シシリア万歳だわ

では、ワインの説明です。
ワインは全て白ワインのPDOトカイで、価格は税込み上代価格です。
表記のないものは750mlです
1.マンドラス2017 3500円
辛口
トカイの固有品種であるフルミント100%
マンドラスとはアーモンドの事で、マンドラスという名のついた区画の樹齢60年以上のブドウから作られています。
収量は僅か2500L/haという低収量でで、これはブルゴーニュのグランクリュにも匹敵する少なさです。
発酵・熟成ともに樽を一部使用しています。
もとはアスー(貴腐)の甘口を作る畑でしたが、オレムスが初めて辛口を作りました。
柑橘の香りとナッツの風味を持つ、すっきりした辛口です。
2.ペトラッチ2018 16500円
辛口
フルミント100%
かつての所有者でオーストリア・ハンガリー帝国で活躍したエルネスト フォン ペトラッチ男爵に名を由来する畑のブドウです。
急斜面で平均樹齢60年のブドウを手摘み収穫。
フレンチオークとハンガリアンオークの新樽で発酵、3ヶ月バトナージュを施し、その後さらに5ヶ月熟成。
マンドラスの上級品的位置づけ、木箱入り
3.トカイ・レイトハーヴェスト2019 4950円
500ml 甘口
フルミント80% 、ハーシュレヴェルー10% 、ゼータ5% 、シャールガ ムシュコター 5%
…後半のブドウは未知すぎますが
貴腐化が50%以上進んだブドウを手摘み収穫しています。
ハンガリーオークの新樽(136Lと220L)で発酵、アルコールが12度程度になると自然と止まります。
その後ハンガリーオークで6ヶ月熟成、さらに15ヶ月瓶熟。
4.トカイ・アスー5プットニョシュ ラグジュアリーレジェンズセット 82500円
500ml 極甘口
1972年、2000年、2013年という伝説的なグレートヴィンテージをセレクトした限定セットです、木箱入り。
セパージュは3と同じですが、比率が異なる年もあり。
辛口のフルミントにアスー(貴腐ブドウ)をプットニュで5回加え、2日間マセレーションします。
ハンガリーオークの新樽(136Lと220L)で約60日発酵、そのまま24から36ヶ月熟成。さらに12ヶ月以上瓶熟。
色の違いに驚愕
5.トカイ・アスー エッセンシア2011 90800円
375ml 極甘口
セパージュは3と同じ
収量はなんと1haあたりわずかハーフボトル9本分。
アスーは一粒ずつ収穫され、貴腐ブドウのフリーラン果汁のみをガラス製容器に入れゆっくりと発酵させています
2年後に68Lの樽に移してさらに熟成し、瓶熟を重ねてリリースされます。
両年のみの生産、1本で木箱入り
古木のフルミント ↓

5の発酵のガラス容器はこんなです ↓

ワインはハーフサイズですが、9万円以上する超高級品です

値段もすごいですが、とにかく数が少ないので

これも跪いて飲むべし

最後に、トカイの法的呼称について少しだけ。
ちゃんと書くとものすごく長くなるので今日は割愛しますが。
トカイは2013年に法改正されまして、それまでの分類が細分化されて複雑になりました

スパークリングも入れて、辛口から甘口まで10種類もあります。
や、ややこし〜
13年以前は、どれだけの貴腐ブドウを加えたかを示す「プトニュス」という表記が使われていましたが、現在は3と4のプトニュスは廃止され、5と6の場合は義務ではなく任意表記となりました。
桶何杯分って分かりやすくてよかったんですけどね

…余談ですが、タイトルの「トカイ編」ですが、特に「TBA編」「ソーテルヌ編」とか続けようと思ってはおりません

以下は2月3日追記です。

いやー、エッセンシア、良かったです

写真ではあの輝きは全然伝えられていませんが

グラスに注いでる時から、粘性が違う

普通の貴腐ワインと濃密さが全く別次元ですね。
5プットニュスのトカイが平凡に思えたりして…
辛口も甘口もフルミントのレモンの風味がよかったです

エッセンシアでさえ、しっかりした酸が感じられるのはすごい
糖度の高さは圧巻なのに

酸が強い品種は温暖化で一層重視されていますので、フルミントも西ヨーロッパで栽培が広がるかもしれませんね。
ハンガリー国内でも、フルミントの辛口白ワインがもっと増えるのではないでしょうか。
くー、やっぱりハンガリー行こうか
